「ありがとうございました!」
ここ最近お昼ぐらいになるとちょくちょくと客がやってくるようになった。少しずつだが確実に春菊も店としてやって行けるようになったのかな?
「すいませーん岩魚の塩焼きランチひとつ!」
「はいはーい」
今日は特に忙しい。
9話「乾麺」
「慧音?慧音は今日は来てないっすね」
「そ、そうかい。……い、いや!?そういうわけじゃ、ねぇぞ!?なぁ、おまえら!?」
『お、押忍!親父!』
「そうですか」
昼ちょっと過ぎ。春菊のテーブルカウンターはある団体様でいっぱいである。
親父率いる「大工」たちである。親父が酒も飲まず大工たちを率いて来たから何事かと思っていたら慧音が目当てであったか。
「しかし、よく慧音がこの時間帯に来ていること知ってますね?」
純粋な疑問に僕が声をあげると親父傘下大工共々盛大に水を吹き出した。
「ちょ、ちょっと!止めてくださいよ!汚いな〜」
「だだだだだだだ、誰がストーカーだこらぁあああああああああ!?」
『こらぁああああああああ!?』
「あのー誰もストーカーなどとは……」
と、その時春菊の扉が開いた。
「いらっしゃいませ。あ、慧音」
「智也、いつもの頼む」
「おう」
と、慧音の注文を受けて厨房に戻ろうとした所で、春菊がいつになく満員(主に大工共のせい)である事に気がつき慧音が空き席を探していた。
僕が目線だけで親父に問うとすぐさま親父は隣に居る大工に視線を送る。
「せ、慧音先生!ここどうぞ!」
すぐさまに立ち上がり席を大工は譲った。
「あ、いえ。お気になさらずに」
「いえいえ、私は丁度御暇させてもらう予定でしたので」
その気遣いに慧音が苦笑いを浮かべた。どうしたものだろうか、と慧音が僕の方を向いてくる。
「慧音。男が女に譲るって言っているんだぜ?素直にその気遣いに応じるって言うのが礼儀だよ」
僕が笑いながらそういうと慧音は少し悩んだ後に若い大工に軽く会釈して礼を述べた後に大工が居た場所、つまり親方の近くに座った。
「で、慧音はいつもので良いんだよね?」
「あぁ、よろしく頼む」
「了解〜」
手早く料理を造り終えて慧音に持って行く。
「はい、オムレツチャーハンお待ち」
「すまない」
春菊特製半熟オムレツチャーハン。慧音がよく好んで食べるチャーハンである。卵を半熟で炒めて、そのままチャーハンに載せたのを切身を入れるとオムライスが開き、半熟でプリプリとしたオムライスがチャーハンの上に広がる。
この半熟チャーハンは慧音の好物でもあるらしい。
慧音がチャーハンに手をつけようとした時に慧音はふと顔を上げた。
「私の顔に何かついていますか?」
視線を感じたのだろう。親父傘下大工の視線が一気に泳ぐ。
「あ、いえ。別になんでもないですよ」
親父が目をそらしながら手を振る。
「そうですか……」
ちょっと不思議そうな顔をして慧音は再びチャーハンに手をつけようとするが、またもや視線に気がつき顔をあげる。その動作に比例して大工共の視線が泳ぐ。
「?」
またもや慧音が食べようとすると視線が集まり、それに気がついた慧音が顔をあげると視線が泳いだ。そしてまたもや――
「あんたら、思春期の中学生か!?」
思わず叫びざるおえなかった。
さて、大工どもがいなくなり時は3時過ぎ。
「はい、どうぞ」
「すまない」
ティーを入れてやると慧音が微笑んでくれた。ちょっとドキリとする。
「で、どったの?」
慧音がこの時間帯までここにいることは結構珍しい。いつもなら授業がない日でも買い物や仕事などをしている筈だが。
「ふむ。実は頼みがあってな」
「なんだよ。改まって」
僕が向いに座るとちょっと申し訳なさそうに慧音は口を開いた。
「そろそろ満月なんだ」
「ふむ」
「で、ちょっと準備しなければならないことがあって、明日は寺子屋に行けなくなってしまった。そこで、智也にお願いがあってな、明日だけでいいから私の代わりに子供たちに勉学を教えてくれないか?」
「はぁ!?」
僕は思わず顔をしかめた。
「頼む!明日はどうしても外せない用事があってな」
慧音が手を合わせてのぞきこむようにこちらを見てくる。正直たまらんが、そこでながされる僕ではない!
「……俺でよければ引き受けよう」
と、思っていた時もありました。
「本当か!?ありがとう、智也!」
第一に断る理由が見つからないしな。春菊の方は一日休んだくらい大丈夫だし、なにより命の恩人(第一号)の頼みだしな。
「この恩は必ず!」
と言うが否や慧音はちょっと嬉しそうに小走りで出て行った。
「……おーい。慧音、お勘定―」
数分後、急いで戻ってきた慧音はちゃんと払ってくれました。